>>127
あ、俺も…。
急な呼び出しがあったからさ、
挨拶もしないで、ごめん。
[流れるような所作でケーキを味わう彼女を、
見惚れるように見詰めながら、
こちらもケーキを口に運ぶ。
一口毎に、薔薇の馨りはより深くなるようで。
それから、彼女の白く、細い指が
俺の口元を拭えば、その嫋やかさに思わず固まってしまった。
まるで、何でもないことのように。
ごく自然なその動きは、
家庭教師という仕事柄、生徒相手に培ったものだろうか。
意識しすぎている自分が恥ずかしく、滑稽で、
落ち着け、と思うほどに胸が高鳴ってゆく。]
……ありがとう。
[やっと絞り出した言葉を口にしながら、
顔は隠しようもないくらいに赤くなっていただろう。]