[本国からの通信内容が広まっていたとはいえ、正式な退艦命令は出ていない。
彼らの避退行動はほとんど逃亡・脱走に近い行為であったので、事情を知らない電測班員にとっては想像の埒外にあった。
だから、電子の目を通して見ている光景を、電測班員はこう解釈した。
即ち、退艦命令は既に発せられ、何かの手違いか機械故障の影響で、電測室には命令が届いていないのでは――と。
でないにしても、短艇がすべて発進してしまえば、あとは、まだ暗い海面を生身で漂うことになる。
その恐怖が、これまで無意識下に押し込めていた下士官兵の不安を一挙に拡大させた。
あと何かひとつの切欠があれば、士気の低下は崩壊に直結し、この場でもパニックが始まるだろう]