― 野茨城・廊下 ―
はて、どうしてこんなことを思い出したんだか。
[城に居ついて数年、慣れた足は無意識であろうともいつもの道を進む。
外に出ることの憚れる身である故に、城の中は男の散歩コースだ。
首の後ろを掻く手の甲には、もう傷跡すらない。
けれど野茨公の舌の感触は、今でも思い出せた。]
『万が一の時は、私が助けてあげますよ』
[彼が初めて血を口にしてしまった時、自身が紡いだ言葉を繰り返して、何とも言えない表情を浮かべる。
野茨公が中毒に屈した時か、あるいは灰に帰した時か。
自身の死のタイミングは、もう決まっている。]