― パン屋の朝 ―
[味覚的に合わない珈琲を飲む兄弟を横目に紅茶のカップを揺らす。毎度毎度、思うがあんな苦いものをよく飲めるものだと感心していた]
(ん―…これは?)
[ほんの僅かに、現実と夢の境界が崩れるような、身体から離れた魂がぷかぷか遊んでいたら何かに捕まってしまったような、不安定な感覚が駆け巡る。
それは彼の”なんとなく”魂を読み取る異能の予兆だった。
生来のもので最期の時を迎えた者にしか発動しないので人間関係には役に立たず。芸術には寄与することもあるが。
この特殊な、霊能者のような感覚のせいで、彼は他の人のことを本来知らないこと以上に知ってしまって、ややうんざりするがないことでもない。
ともあれ、今は避難の支度を整え、銀嵐に備える]