[剣呑な雰囲気を隠そうともせずに館の中を真っ直ぐ、母親の元へと歩いていく途中、弟の姿を見つけると足が止まった。]
ウェル
[寄せていた眉間の皺をほどく。弟の前に立つ時は良い姉でいられるようにと努めていたが、今日は隠しきれない怒りがどうしても滲んでいた。
坊ちゃんと呼ばれる嫡男は、頼りない所はあるものの、その性格もあって周囲から愛される子だった。
自分もまた、ウェルシュの母親には思う所があるものの、彼自身へ向ける感情は優しい物だった。
いつか弟が領地を継ぐのなら、その手助けができればいい。
そう思っていた時期もあったが、たった今無くなった。]