尤も、故オレイソン氏を疎んだ王府側の謀略も否定はできんが。
[ゆらゆらと湯気を湛え揺れる、鮮やかに赤い色の紅茶を口に含む]
…他人を陥れる為に、動かぬ証拠など極論不要なのだよ。
スルジエの手の者が、王府軍の指揮官を狙撃した『可能性』。
その妙なる弓の業前は、要人の暗殺も可能とする『可能性』。
或いは三日前の日、より重要な者を殺さんとした『可能性』。
…そこへ、ひとつまみの芳香の恵みを齎すフレーバー。
[傍らの壷から、男は乾燥させた林檎の皮をひとつまみ、紅茶の上へ落とす。
それだけで、紅茶の香りはより高く、執務室にその匂いを広げた]