― 10年前のある日/宿屋 ―
[暖かな空模様にさわさわと風が鳴らす梢の音色。
もう二桁年も前のある日、風花の村は華やかな活気にほんのりと包まれていた。
宿屋のご両人の結婚式。ささやかながらも、都会でも無い村中では間違いなく一大行事。めでたい空気は翌日程度では冷める様子も無く、呆れつつも祝福の繰り返しに、宿屋の人口密度は多少高かったかも知れない]
いやーよかったよかった。
本当、間に合ってよかったよなぁ。
ギリギリ適齢期に―― いでっ!
[…唯、茶々や冷かしの為に来る村人もいた。
ホヤホヤ夫婦の旦那に落とされた拳骨が痛そうに、薄麦の髪を両手で押さえている少年が丁度、客でも無い宿屋の冷やかし者として居座っていた]