[───今、囚われるわけにはいかない。
わたしは銃身をゆっくりと、……アイリ総督に気付かれないように、本当にゆっくりと回して合図を送る。この銃口を向けた先、監査局長に分かるように。
アイリ総督はおそらく、今ここで監査局長を射殺するつもりはない。
身柄を拘束しようと考えているはずだ。
彼女が合図をすれば、わたしたちは彼に詰め寄り取り囲む事になる]
(だが、そうはさせない)
(これは、賭け)
[合図が出された瞬間、わたしは銃口の角度を変えて、アイリ総督の背を撃つつもりだった。
指揮官が急に落馬をしたら、周囲は一斉に動揺して、次の行動にすぐに移れない…はず。
だって、中には寄せ集めの傭兵まがいなごろつきもいるのだから。
いつものように統制はとれない。
指揮は必ず乱れる。
その隙に王宮側から何か動きがあれば、形勢は逆転するかしら。
多勢に無勢だけど、監視局長はおそらく時間稼ぎをしている。
もう少し応援が来れば、あるいは]
(これは、賭けなの)
[逆転の機会を狙ってる。その意図が伝わるかしら。
わたしは横に並ぶ騎士らにも気づかれないように、銃身をゆらゆらと動かし監査局長の反応を伺う。
わたしは表情を微動だにせず、ただ、まっすぐと射るような目で彼を見据えた。**]