[車から降り、運転手から旅の荷物を受け取る。余分なものを好まないゆえにトランクひとつに全て納められていた。] ……すまない。少し寝ていたな[先まで後部座席の隣に並んで座っていただろう男に非礼を詫びながらタラップを目指す背は真っ直ぐに伸びている。旅立ちの前夜も深夜に及ぶほどの避けられない社交の席はあった。音の静かな黒塗りの箱に揺られながらつい意識を手放してしまったのは近くにいる男への信頼の表れでもあっただろう。]