―回想・約十年前の冬@―
[それはまだ、自分の中に感情が在った頃――などと、これが小説であればそう語り出すべきなのかもしれないが、生憎と感情が無いのは生まれつきである。
言うなれば、元から殆ど枯渇しきっていた心が、完全に砂漠に帰したときの話である。勿論、悲劇的な昔話が語られるわけでもない。
これは、元から感情のない自分の、未だかつて誰にも話したことのない、何てことのない過去の話。]
[その年の冬は、例年よりも早く訪れたなんてことはなく、おおよそ例年通りに訪れた。
村と外界をつなぐ道が封鎖された最初の日、その日は吹き荒ぶ風が悲鳴を上げるかのように跳ね回り、木々へと襲いかかっているかのようだった。空間そのものが、酷く暴力的なもののように感じたのを、今でも脳裏に焼き付いているかのように、鮮明に覚えている。]
ん、やっぱり完全に塞がってる。
[それは誰に頼まれてか封鎖された道を確認しに行ったときのこと。その時にはすでに両親を亡くしており、村の人に助けられつつ、周りから自身に向けられる望みも上手く絡み合いながら、奇跡的にも生き延びていた。