自身の中からは願いや望みを含め、徹底的にあらゆるものが排除されていた。自分が自身のことを空っぽだと表現するのは自嘲などではなく、揺るぎない事実なのである。どんな期待にも応えると言えば聞こえは良いが、なんてことはない。自身に意思がないからこそ、他人の理想を借りなければなにもできないのだ。
そんな自分が今に至るまで生きていることは、或いは奇跡に近いのかもしれない。今、自分が生きているのは、“彼女”にかけられた願いという名の呪いによるものだというのは明らかで、そのことに対して何か思うような感情も持ち合わせてなどいないが、少なくともその呪いは己の中で全ての事象に優先される。]