―少し前:医務室―
[ 月明かりを紡いで糸にしたような彼女の髪は、
砂漠の砂を固めて束ねたような色の学者のものとは
違って、何時だって触れれば柔らかでいい香りがした。
再会した時に、直ぐに彼女だと分からなかったのは
昔々は腰ほどもあった髪>>0:36が短くなっていたから。
彼女だと、分かってからは残念にも思ったけれど。
手が伸びればお互いの髪にも触れられる距離。
自分の砂色に近い髪に彼女の手が触れたら、>>86
頬を擦る髪の感触に目を細めながらも、確かに
… ――――倖せだ、と思った。
彼女が人狼ではない者の命を奪ってしまった後でも。
自分が三人もの人間の命を奪ってしまった今でも。
彼女の命が此処にあるという事実だけで幸せだった。
それ故に、彼女の命を危険に晒した人間への
仄暗い怒りが言葉の端から滲み出てしまったのだろうか。
もしも、彼女が他の言葉で紛らわせようとしても、
それを許さないほど、真剣な声で告げたから。
彼女を大事に思っていると、そのことは、
言葉にする>>89前から薄らとは、伝わっていたかもしれない。 ]