― 数年前 ―
[ 母親を早くに亡くし、庶子であるが故に父の正妻に嫌われ、本宅から離れて育った彼は、幼い頃から家族というものに縁遠かった。
ラモーラルで宰相に引き取られてから暫くの間は、1才になったばかりだったオクタヴィアスの子守りのような役になって、彼の母にも善くしてもらった。それが彼にとっては初めての団欒というものの記憶だ。
今はもう、望むべくもないその思い出が、屈託なく話しかけてくる若者の澄んだ瞳の中に蘇るようで、ついつい際限なく相手をし、教えを請われれば、出来る限りを語り、逆にエドルファスからは平原の民の様子や、狩りの話を聞いたりもした ]