[家に帰った娘は、何となくやりたくなって心のままに絵を描いた。
好きなように、やりたいように。絵を描いた。
しばらく没頭したように描いていたが、はたと気が付き手を止めた。
キャンバスにあるのは大量の赤。
自分はこんなに赤が好きだったっけ?
しかし不思議と嫌な感じはしない。
それと同時に焦りもあった。
――コレハ、人間ニ見セテハイケナイ
完成サセテハイケナイ
漠然とそう思った娘は、描くのを中断すると片付け始めた。
そのまま記憶の彼方に捨て去った、見ようによってはとてつもなくおぞましい、未完成の紅。]