──……。
『なんだありゃ。余所者か?』
おそらく。
寒かったんだろ。…俺の精気で良けりゃくれてやるのに、逃げてしまったな。
[悪いことをした。
呟きに兄弟達は不思議そうにする。
領地に入られた事を咎めも罰しもする気が無いのは、幸い、かの精が取り憑いた獣は元気に沐浴を始めていた。]
だって、花は愛でるもんだろ。
どこの誰か知らんが、頑張んな。生きて会えたら、まあ酒でも飲もう。
[果たされる予定も相手も分からぬ約束を凍えた外気に溶かし、変わり者の次代の長は、琥珀色の目を細めて笑う。
以降、『長き冬の時代』がとうに終わった今でも、鎹沼はどこの誰が近付こうとも、咎めず罰せず争わず、それが雷華における暗黙のルールとなったのは、また別の話。]*