[引いては寄せる小波めいた音色が、遠く闇を震わせる。徐々に音が近づいてくるにつれて、凝る闇が輪郭を得てその姿を変え始めた。初めに現れたのは、一台のヴァイオリン。自動的に動く弓が、透明で澱みのない音を奏で、美しくも心に訴えかける旋律を組み上げてゆく。不意に曲が転調し、その弓を掴む手が実体を成した。スポットライトの中に踏み出すように、闇の中から一人の演奏家が浮かび上がる]