[一層冷え込む長い冬のある日。どこから迷い込んだのか、雷華の地に一人の花精が現れた。ちょうど、ガートルートが獣達を鎹沼のある湿地へ誘導している最中のこと。獣の体温に惹かれたのか。弱り切ったその精は、獣の精気を、温度を、吸い上げていった。雷華の地では、魔も神も獣も、死すべき者は死ぬ運命《さだめ》。だが次代の長として、見た以上は止めぬ訳にもいかず──しかし、声を掛ける前にその精は霞のように姿を消した。]あ。おい────、[引き留めようにも、最早その姿も形も失せて。仄かに残る、清々しい甘い香り。]