─ 遠い記憶・鎹沼と蓮の花 ─
[譲葉の南東の果て。
古より闘争の民《雷華》の治めるその地に、
コの字型をしたその大きな沼は、通年靄が立ち込めコポコポと泡を立て気味悪がられていたが。その実態は、なんのことはない、所謂温泉であった。
コの字の片側から熱湯に近い源泉が。もう片側からは水が流れ込み、程よい温度に保たれたそこは、いつしか雷華の民が湯治に集う憩いの場所となっていった。
氷華の治める『長き冬の時代』にも、水門を閉ざすことで耐えた鎹沼は、雷華に属する魔人や獣を癒すのに重宝された。
当時は未だ長ではなかったガートルートも、兄弟達を連れてよく湯浴みに行ったものだった。
そんな折。]