― 回想/出発前 ―
[名乗り以外では黙したままだったが、
主要の顔合わせにも護衛である男は在席していた。]
………妖か。
[尾の一件の際には、男はスッと目を細め、
その一言だけを低く呟くと、後は再び黙するに留まった。
男はアヤカシの存在を知っていた。
知っているが、良い感情があるわけではなく、
だがそれをこの場で口にする程の愚か者でもなかったので、
己の腹の中に静かに収めるだけであった。
主の部下からの不安の声は、主たる男が諌めた。
それが正しい在り方であり、
弟子の一人でもある若者の成長がそこにも見え、
それには心躍る物も浮かび上がったが*]