…………レナートゥス?
[>>67強張る表情を自覚した折には、幸い、あちらは頭を下げていたが。その首に揺れる細工に、思わず息を呑んだ。
アイヒェ。レナートゥス。
忘れ得ぬ名。コリルスの豪商、アイヒェ家。……レナーテ・アイヒェ。
何より、その首から揺れる細工は、自身の首から下がる鎖と同じ物。
嫁入り道具として持たせるつもりだったのだ、と。母が幼い自分の首に下げたのは、鳥の片翼をあしらった、水晶細工。
どれだけ問うても生前母が片翼の行方を語る事は無かったが。男児出生の報に、笑みと共に“本妻”の矜持を示すが如くアイヒェ家に片翼を贈った事は、当時の自分も知っていた。
……それが今、少年の首元に、揺れている。]