[その土地に生きていた、あるいは船に乗り合わせた、髪も眼も肌も、骨格や大きさも言葉も種族も違う、出会った者たちの顔を、ひとつ、ひとつ。
伝えられる限りのものを、伝えられるようにと。
ひとつひとつの音に、精一杯の、記憶を込めて。
昔はもっとたくさんの人と笑い交わすことが出来た。
いまは――向こう岸を歩きながら、窓に灯る温もりを、ただ眺めている。
語りたいわけではない。
軌跡を残すことなど、何一つ望んでいない。
ただ……これだけしか、持っていないから。
もう、出来ることが、他に何も残っていないから。]