―宿・談話室―
[誰にも見られないように、コップ一杯の水を用意して飲み干した。飲んだ水は生き物のように体内を巡り、渇きを潤す。そして――
――潤いを上書きするように、嘲嗤うように、潤いが“渇”きに喰い荒らされていった。]
――ああ、もう限界か。
[心の中で呟くと、それに呼応するように内なる獣が目を覚ます。時々目にする赤色の月のような眼光が煌めきを増して、凍てつく視線が鎖状となって、己の中で交錯する。
――“声”が、聞こえた。「生き続けて欲しい」と。
かつてかけられた、願いという名の呪いは瞬く間に身体を満たす。渇けど渇けど潤す意思は芽生えずに、しかし、限界に達すれば彼女の願いが意思として、己に宿る。
――我ながら随分と遅い目覚めだ。
と、やはり他人事のように考えた。]