旅人 ニコラス

― 船着き場へ ―

[一隻残っていた船は、既に繋がれていた杭ごと姿を消していた。>>110

昼間に村へ到着したときとは比べ物にならないほどの崩れた空の下、激しく波打つ湖は、初めて目にするほどの荒々しい表情を顕わにし、人間には手の施しようもないほど厳しい自然を目の当たりにしてみせているようだった。

呆然となりかけたところで、リーザが泣きそうな顔でこちらを見る>>110。
船がないと分かって、看板娘が抱いた気持ちは言われずとも想像がついた。

このままここで呆然としている場合ではない。早く次の対策を取らねばと、思考を目まぐるしく巡らせてから、二人の視線に合わせてしゃがみ込み、安心させるように優しそうに見える表情を浮かべる。]

まず一旦宿に戻ろう。目的である船がない以上、この嵐の中にいたら、僕らの身が危険だ。
そして……ジムゾンさんに相談するんだ。あの人は普段から頼りになるし、ゲルトが倒れたときの対応だって見事だった。

[どうだろうか？　とリーザとペーター、二人の表情を交互に見ながら、なるべく落ち着いた口調になるよう気を付けて提案した。*]