―― 銀羊号 ・ 船内通路 ――
[一度開いた記憶の扉は、次から次へと波のように、沖の青を運んでくる。
拾われたのは俺だけじゃないし、船長の娘さん”になったあの子だけでもない、似たような年頃のお嬢さんも、もうひとり。
もしかしたら、他にもそういうことがあったのかもしれないけれど。
どちらも俺からはいくらか年下だったから、彼女たちが船に来た時には、後輩が出来たようでうれしくて。
船の暮らしのことやら船員のことやら、張り切って説明しようとしたものだ。]
(ふたりとも、大きくなったんだろなあ…)
[今会ったとしても、もしかしたら、分からないかもしれないな。
――そのようなことを考えていたのは、もしかしたら虫の知らせのようなものだったかもしれない。
通路の向こう、乗客に呼びかける乗務員の挨拶の声が、ふと耳に入って。>>30
遠目に見えたくしゃくしゃの癖毛の後姿が、記憶の中にあるだれかを、ふっと思わせた。
ああ、そうそう、あんな感じの――…
銀羊号は広く、乗務員の数は多い。
これまで会ったことはないはずだし、名前も分からない。
話しかけてみようかな、とそちらに足を向けようとするが、そのとき不意に、また別の方角に見知った顔を見つけた。]