[す、と手が上がる。虚空を叩くように、指が滑る。それに応じて響くのは、旋律。祖母の形身だという、音楽データの中に残されていた、題名も知らぬ曲。紡がれる旋律と、合わせて歌う若い男性の声は、何故か風を感じさせるものだった。『自由』なるもの、何者にも束縛されぬ風。それへの憧憬が、彼にヒトとしての全てを捨てさせ、今の在り方を選ぶに至らせたとは。誰一人知る事のない、猫の記憶。**]