―回想:あるときの花屋―
あら、いらっしゃい。
今日は何のお花にする?
[いつも店に訪れて花を一輪買っていってくれる常連の"男性"。>>43
たしか名前をカレルといったか。
名前を言うときにどこか居心地悪そうにしていたから、聞いちゃいけなかった?と思わず言ってしまったのは記憶に新しい。
それに、ピリピリとした気を張った顔でやってくるものだから、どうしてもつい構いたくなってしまうのが困りもの。
たまに上手くタイミングが合って、ハーブティーなんかをおすそ分けすると、目元を和らげてくれたような朧げな記憶があるが、どうだっただろうか。
そういった彼の独特の雰囲気に、こちらもどこかホッとしていたのは内緒。]
そうだ、今日はジャスミンを切ったの。
匂いが駄目じゃなかったら、これにしない?
[指さしたのはスッキリとした白い花弁の、独特な方向を持つ花。
ジャスミンの匂いは、自信を取り戻すのに役立つと何かの本で読んだことがあった。
自分には彼の心中は察することが出来ないけれど、少しでもリラックスできればいいなという思いがあった。
彼は果たして買ってくれたのだったか。]