(汗を拭う暇もねえっ!)
[全身がびっしょりと濡れている。流れる汗は身体を動かすことで散らしていた。
こちらの身を襲う刃を受け真っ当に止めるには両腕が必要で、基本的にはかわすしか手立てがない。避け損ねれば死傷し、受けるには技量と幸運を共に備えなければならなかった。
身体の全てを使って、足場の全てを使って、逃げ、避け、交わし続けながら、手出しのできる余裕を作る。
その搾り出すようにして得た一手分の行動がまた、相手の行動への隙となり、更に一層の自身の窮地を作り出す。それを繰り返す。
幾度となく殺され掛け、僅かな貯金を作っては吐き出し、再び殺されかける。
必死になって傷を負わないようにだけ四苦八苦する。相手の余裕がどこまであるかは察することはできないが、こちらの余裕はまるでない。一手一手に死への誘いを感じながら、必死に生を求めて身体を動かし続ける。
ただ戦う事を強いられている衝動のせいか、恐怖だけはなかった]