―或る人の墓前―
[降り続ける雪は世界の色を塗りつぶすかのように。熱まで奪って他の季節を殺しつくす。静かで強大な、死神のような、冷徹。
この時期になると――正確にはこの村と外界が断たれた最初の日には――必ずある場所へと足が向かう。言うなれば、願いという名の、呪いに導かれて。]
……ん、久しぶり。この季節に出歩くのも楽なことじゃないっていうのに、我儘なお姫様が随分と厄介な呪いをかけてくれたものだよ。
[呟く言葉は目前の石に跳ね返り、行先もなく虚空に還る。もう、この言葉を向ける相手はいないのだと、現実が耳元で囁いている。]
毎年来て欲しいとは言われたけれど、来た後でどうしろとは言われてないから。
[…はしかし、感慨など一切ないと言わんばかりに言葉を紡いでは虚空へと還していく。]
呪いの効果は目論見通り、効果覿面だったというわけだ。この命は君に生かされている。
[…は最後に、「来年もまた来るよ」とだけ告げて、お供えの一つすらせずにその場を立ち去るのだった]