……マチュザレム共和国、ですか。
[ 廊下に出ると軽く息と共に言葉を吐いた。
その国は自分にとって祖父にあたる人間の故国である。祖父は軍人とも職人ともただの船乗りとも聞いていたが、実際は何者であったかは定かでは無い。暴風に晒されて難破した船の残骸と共に引き上げられ、今の主の祖先に助けられたのが始まりだという。
結界によって外洋に出られないこの国にとって、船の知識を持つ祖父は貴重な人材であったのだ。この事を王府に報告したのかどうかは知らないが、祖父は主の元で妻を貰い、土着する事となった。極めて背の高い人だったらしい。その地が一代挟んで自分に受け継がれたのは聊か迷惑な話であったが。]
( 見栄えがいいから他の職ではなく軍属を選んだという話は両親から聞いています。)
[ 結果として三代軍人の家となり、両親は流行り病で死に、残された日記に記す内容が事実ならば、故国の地を望みながら祖父も死んだ。せめて骨だけでも還りたい。という悲痛の叫びは秘匿されたままだ。]