>>97 カナン
[つかつかと自分の元に長身の男性が近づいてきたのはその後のことだっただろうか。突然跪いた様子に何のことかと驚きを隠すことができなかったが、相手の様子に「ああ」と頷く。
これは――「女性へのアプローチ」だ。そういった男性の姿は、恋天使ならば否応なく何度も目にする機会があった。
宝石を渡された女性は目をうっとりと輝かせ、男性の手を取り、2人は抱き合い――
ああ、そういう男女を、私は何人も見てきたのに]
ええと……どうしたら、いいのかしら。
[出てくるのは間抜けな言葉ばかり。手は、そのプレゼントを受け取れないでいた。動揺よりも、困惑に近い。相手からのアプローチに慣れていない、というのも勿論あるけれど、其れ以上に何か違和感がある。
――それはすぐに気付くことができた。
『相手からの矢印が、全く自分に向いていない』のだった。
とくとく、と普段なら見えるはず、いつもなら見ているはずのそれが、そこには、無かった。勿論、ばっちり向かれていたとしてもそれはそれで困ったのだろうけど。]