― 回想:蒼に花は翻る ―
[母は、美しい人だった。
サイプレス北東部。辺境地ローティスを治める、ロートスブルグ家。
糸杉の細工物で生計を立てる領民は皆気立てが良く、領主はそんな民の声を民の目線から拾い上げる。極小さく、決して裕福とも言えぬそんな地で、母は生まれ育った。
祖母は己の通名と同じ名を持つ、異国の竜姫。
他と違う風貌の由縁を母に問うた折。母は謡うように、閉ざされたこの国では珍しく身分を隠し異国を旅した騎士と、竜を駆り騎士と共に居るうちに離れがたさに国を捨てた夜闇の舞姫の話を聞かせてくれた物だった。
真実は知らない。
只、確かに祖母は異国の出であり、年経た今尚竜を駆る騎竜師であり。母の静養に伴われ、2年前まで己が過ごしたローティス領は、そんな説話すら穏やかに包む空気を纏っていた。]