まあ、怪我は大したことねえから。
[もう――ないから。]
ああいや、バイオリン弾きながら歌うって相当だぞ。
今は勘弁してくれ。
次のときの、約束。
[そんな風に、笑いながら。
出来もしない、嘘を吐いた。
楽器を肩に。
弓を運ぶ。
流れるように、滑り出した最初の音は、その曲が奏でられた旅の映画のひと幕を、思わせるものだったろう。
けれど、それは最初だけのこと。
気儘に道筋を揺さぶり、時に駆け出し、時にゆったりと、時に回り道をしながら、止まることなく歩みを進めるその音は。
一呼吸ごとに、一音ごとに刻まれた、青年自身の、旅の軌跡。]