[おにいさまが狐の姿だから言えたけれど、こうして面と向かうと少し恥ずかしいわ、なんて思いながら誤魔化すように笑ってみせれば。突然に肩を掴まれる>>93。]
お、おにいさま、…?
[驚きに目を見張って、目の前の兄の口から紡がれる言葉を聞く。
常日頃の、滅多に崩さない優しい笑顔からは打って変わった様子にも戸惑いを隠せない様子で少女は兄の空色を見つめた。
「誤解」「正気」「大切」「一人だけ」。
――「君だけ」。
一番聞きたかった言葉が少女の胸を突き刺す。]
でも、だって、――、他に大事な人ができたって…
[少女もまた震える声で言葉を発するけれど、その返事は聞けたかどうか。兄が気付くのとほぼ同じタイミングで、此方に近付いてくる妙な気配>>90を感じ取ってしまったから。]
だれか、来るわ。気をつけて。
[五月蝿く悲鳴を上げる飢えの声を必死で無視して、少女は兄と友人に注意を促した。]