― 玄関>>62 ―
[不意に声を掛けられる。
何かを含んだような笑顔と、口調はしっかりと相手の気持ちに孕む棘を伝えていた。
館の説明をする姿に、それがこの招待状を送りつけてきた人物と知る。]
これはこれは当主様。
この度は数ならぬ私までご丁寧にご招待にあずかり、
まことにありがたく、光栄の至りです。
[再度帽子を取り、恭しくお辞儀をすると、足早に立ち去ろうとするユーリエの手を取った。
拒絶されなければ、挨拶変わりの口付けを手の甲に落としただろう。
なるほど、ローゼンが今仕えているのはこの女主人か――。]