[そもそも、あの難解極まりなく迷路のように捻じれて、それでいて芯の通った作曲家の最後の作品を、あんな風に弾きこなすなど。
その時はN室での別れに沈んでいたけれど、後で思い返せば見事なもので。>>4:243
だから――これは言ってみれば]
俺の要件は――
記憶の、横流しだな。
[ぽつり、いかにも楽しげにニヤリと笑ったその笑みは、少しばかり久しぶりのものだった。
唐突な言い回しに、その意図するところが伝わったかどうかは、分からないけれど。
ああ、折角だから、もしその場にいたとしたら、どこぞの忘れっぽい藪医者にも聞かせてやろう。
穴の開いたポケットに入れて、うっかり落としても全く構わないような、赤い目のがらくた人形だから。
――… いま、届けば、それでいい。]