ああ、いや。すまん。
久しぶり…っていうか、ここじゃ”本当に”久しぶりだよなあ。
[実は彼とは、士官学校に入るよりずっと前に一度だけ、家同士の集いで顔を合わせたことがある。
お互いがまだ小さかった頃の記憶だ。
ベルンシュタイン侯爵家で、二人の少年は会ったことがある。
人見知りだったディーク少年は、年下の少年と殆ど言葉を交わさなかったはずだから、ステファンの記憶に残ってなくとも無理はない。
そして残念ながらディーク自身も、在学中にステファンを遠い昔の彼と認識することがなかった。
残念…いや。幸いにもというべきだろうか。
青年たちは互いの出自も国も知らず、だからこそ、かの士官学校は平和な聖地でいられたのだから]