[どれほどそうしていたか。
アミューズメント・エリアのホテル前の一画。
人の気配がしんと絶えたフロアに、響いた足音は、一人分だったか、あるいは二人分だったか。]
ああ、呼び出して悪いな。
こんなときだが……こんなときだから、かな。
弾きたくなったから。
……って、そのギター、弾く気じゃねえだろな。
また怪我してんだろうが。
[人として自身が生きてきた名残を、誰かに伝えようとしているというような、そんな上等なものではなくて。
ただ、あのとき。
ドロシーのギターをかき鳴らし、声を乗せて心を伝え、別れと“再会”の曲を選んだ、その姿に。>>4:243
ああ、きっと――…
沢山の楽器と出会い、出会った者たちの言葉を受け止め、心を深く察し、音の一つ一つを愛し、触れて、癒して、自身の音もより深く豊かに響かせてゆける、
そんな手なのだろうと、思った。]