― 回想・子供時代 ―
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驚いたのはオットーで間違いなかっただろうか。
梟に怯えるオットーをからかう様にアルビンはくすくすと笑った。
近くの木々から飛び立った梟がふたりの頭上を過ぎると、今度は地を震わす程の遠吠えが聴こえて来た。緩んでいた空気は一瞬にして張り詰める。
「あれは鳴き声は何?」とアルビンに訊いたのもまたオットーだったか。
「あれは、狼の遠吠えだ。」
と教えて、オットーの腕を掴んで鬱蒼と暗く茂る森の中を走り出す。ひたすら前へ走り続けていると、急に視界が広がった。木々ばかり並ぶうっとうしい場所から、広場のようになにもないところに着いたのだ。
其処から小高い丘と一匹の獣の影が見える。天に届けと云わんばかりに空を仰いで大きく遠吠えを響かせていた。
アルビンは思わず目を奪われた。まったく無駄のない、流れるような身体の線。それを包む漆黒の毛並み。
アルビン達の居る場所からは確認は出来ないが、鋭い爪と光る牙を持ち、その目はどの宝石よりも美しく輝いているのだろう。すべてが野性の力と品格に満ちていた。]