──天獄の泉・居室──
……何かを思う必要がないのなら、
どうして、生贄の羊のことを気にかける?
人の子ですら、自分が摘んだ花に
そんな思いを巡らせることも少ないだろうよ。
[言いながら、ふと思い出したことがある。
昔、自分たちが長じて間もない頃、
とある村を彼女が視察に行ったとき
心なしか気落ちした様子で戻ってきたことがあった>>0:359
あの頃のオレはまだ、
成人したと認められる前で
あのひとや彼女が帰ってくるのを
首を長くして待っていた。
そのぶん、平生と異なって見えた彼女の姿は
なんとなく印象に残っていた。
何かあったのだろうと思ったけれど、
問おうとしてもはぐらかされて、
結局そのままになっていたなと思い出し]