― 東海岸 ―
[ 暮れゆく海は、黄金と緋の綾なす波を寄せ返し、無骨な軍船すら美しい影絵の一部のように光に浮かぶ。
しかし、その風景を楽しむでもなく、男は、見張りから齎された敵船接近の報に、甲板へと足を運んだ。 ]
火矢を。
[ ここで速度を落とした相手の意図は計りかねる。>>69
或いは誘いかけの一手かとも思ったが、だからといって好機を逸するつもりはなく、火矢を用意させたが、こちらは風下だ。王家の旗が射程に入る前に、一本の矢が舳先へと突き立った。 ]
何のつもりだ?
[ それ以上仕掛けてくるでもなく、再び北へと速度を上げた敵船の行動に首を傾げる。]
『閣下、敵の矢にこんなものが』
[ 届いた矢に結ばれた文に気付いた兵が差し出したそれを一瞥し、男は苦い薬酒を飲んだ時同様に眉を顰めた。 ]