……?
[男の意識を戻したのは、まだあどけなさすら残る少年の声>>95だった。
一度見ても思い出せなかった姿も、その声と動く表情も合わせれば、薄い記憶が蘇ってくる。
男に取って薬屋はあくまで生きるための術で、客の顔などほとんど覚えていない。
笑顔で言葉を交わし、求められる物を提供できるのも、人間たちが男の正体を知らないからだ。
真実を知れば、笑みに細められた瞳がどんな色を宿すのかを、己は嫌と言う程知っている。
故に、有象無象としか認識しないように心がけ、黒ずくめの男たちが己を殺しに来た際も、店への未練など欠片もなかった。]
貴方、は……、
[しかしただ一人、覚えている小さな姿がある。
森の中で暮らしていた親子。
その息子は人でありながら、魔の気配を僅かに漂わせていた。
幼い彼は身体が弱かったのか、よく解熱剤を調合したものだ。
時折おつかいにやってくる際は、何もあげられない代わりに頭を撫でていたのを覚えている。]