負傷兵 シモン

― �C号室 ―

［ベッドに腰を下ろして一息ついたなら、机に向かって、――ちょうど部屋には書付用の紙が何枚か備えてあったので――、一心不乱にペンを走らせた。］

『鳶色の瞳の君へ

聞いてくれ、素晴らしい事が起こったんだ！
恐ろしい予言と謎の光。そして懐かしい血と獣の香り。
これはもうすぐ人狼が動き出すに違いない！

ああ、君と出会った日の事が昨日のことの様に思い出せる。
けれども、疑心暗鬼になった人間は残酷なものだから用心しなくてはね。そうしないとよそ者の俺はいつ絞首台に連れて行かれるか分からない。

だからまずするべきは、村の人達の信用を得る事。その為には、俺達の経験した人狼騒動の経験や知識は、彼らにとって有益な情報になると思うんだ。

そうすれば吊り縄は遠のくし、狼逹には俺の事が驚異に映るだろう？それが狙いさ。

だが、村人全員に一斉に呼びかけるのは愚策だ。だからこう言う時は、村の中心人物にまず話をして、その人から俺の事を広めて貰うのが一番だ。
この村の中心人物は……恐らく神父。
祭りの段取りを一手に取り仕切っていたし、ゲルトが倒れた時も的確な指示だった。
そこから修道女やパン屋や赤紫のおっさんならず者風の男辺りに浸透すればまず大丈夫だろう。
ニコラスという旅人仲間も居る。あいつは良い奴だよ。

――もし神父が人狼だったらどうするって？
もしそうであっても、俺の目的からしてデメリットは無い訳だから問題ないのさ。

君みたいに上手く演れるといいんだけどね。
頑張ってみるよ。』