ちょ、これ、な…
[じたばたと片腕がなにかを掴もうと動くものの、岩ばかりだった風景に木のようなものは見当たらず。一瞬の混乱を抜ければ、ただ風に靡くよう、ふわりふわりと体が地面から離れて浮き上がっていると認識した]
なに…
[泉の効果なのだろうか。足が地面につかない不安感に怯えるよう、腕の中の仔犬をぎゅっと抱きしめる。その犬もびしょぬれであるが、青年ほどは取り乱していないのか、小さく声をあげる]
……。乾いたら…下りれるんでしょうか。これ。
[試しに移動をしてみようと腕を動かすも、意思とは別にふわりふわりと風に流されるのみ。どうしようもなくため息をつき――困ったような姿は、先程出会った時とは微妙に色を変じた修道士の目には、入っただろうか]
― 風の向く方・1(10x1) ―