なるほど、あれが。
[雪、と呼ばれるもの。
知識としてはあったものの、未だ実物を目にしたことの無かった男は、その白をしっかりと視界に収める。
それから戻した視線で、否の答えを返した。]
…申し訳ありませんが、私のおりました地では、
雪は見ることが叶いませんでした。
[ですから、人違いでございましょう、と。
問われたことにはっきりと言葉を返す。
先ほど投げられた問いと、声の主が異なることには気づいていた。
しかし、その声が、己を呼び寄せた者であるとは、未だ思い至らぬまま。
意識を失い、目が覚めたら見知らぬ地にいるという異常事態には、まるで動じぬ素振りで、淡々と、言葉のみを返す。*]