[ソマリが此方を向いて微笑みかけるのを見て嬉しくなる。髪に触れる仕草が照れ隠しのようなものだということも、もちろん知っていた。]
うん、いいお話みたいだね。だから、誰かが借りちゃう前に読もうと思って。
僕が手伝ったところもちゃんと使われてるか、確認しなきゃいけないしね?
[作品について語り始めるソマリに、悪戯っぽく笑んでみせる。
彼が苦手とする感情表現や情景描写などの翻訳を、ほんの一部ではあるけれども手伝わせてもらったのだ。
──己のかわりに第二閲覧室に配属された翻訳官がソマリでなければ、こんなふうに接することができていたかどうかわからない。分厚い論文の翻訳に喜々として取り組む博覧強記の彼だからこそ、彼の役職に羨望はあれど、こうして素直に同期としてつきあうことができているのだろう。]