[湯で体を流せば、どろどろと赤い川が出来上がって、顔を顰めた。痛みがじわじわとわずらわしかったので、カラスの行水のごとく手早く入浴をすます。
薬を塗り、包帯を巻いて着替えを着る。その間に玄関があく音が聞こえたのかもしれない。>>53]
――こんな姿やったら、
[こんなに血のにおいをさせていては、オオカミといえども無事ではすまされぬか。現にゲルトはルートの肩を食い千切った。きっと、共食いが可能な種族なのだろう。
いつ、ローや、他のオオカミになったものが小屋に戻ってくるかもわからない。]
くそ……。
[ルートヴィヒは浴室から出ると、ローゼンハイム宅一室の窓から飛び降りて、薔薇園へと足を運んだ。
この薔薇園は迷路のようになっている。むせ返るような薔薇のにおいに、血のにおいもまぎれてくれるだろう。
くらり、とめまいがする。せめて、見つからない奥へ、奥へ。
ルートヴィヒはよろよろと薔薇園をさまよい、やがて白薔薇の咲く一角にくず折れた。
一重の薔薇が風に揺らめいてるのを見ながら、眠気にいざなわれて、目を閉じた**]