― 温泉の前 ―[ツェーザルに手を引かれるまま歩いていけば、やがて、確かに湯の気配が前方から漂ってきた。何処をどう辿ったのか定かではないし、前回来た時とは、周囲の風景も違う気がする。だが、間違いなく、自分が来たことのある温泉だ。ひょっとしたら、強く行き先をイメージすることができれば、いずれはそこにたどり着けるのではないだろうか。もし、脱出するための出口を求めれば、あるいは、扉を開く鍵を求めたならば。思考は、異様な音を耳にして途切れる。]