― 自天幕 ―
[男は自分用の天幕へと戻ると、深く息を吐き腰を下ろした。
身につけた鎧は外さない。
何が起こるか分からないためだ。
ただ、胸当てを少し緩め、その下から細いチェーンに繋がれたカメオを引っ張り出す]
…ヴェルザンディ…ロヴィン…ベルティス…
[それは結婚した当初に妻の肖像を彫り入れたもの。
妻は男の肖像を彫り入れたカメオを持っている]
無事でいてくれ……!
[カメオを握り、その手を額へと当てて男は祈る。
シラーを離れる際、男は自分の屋敷に戻ることが出来なかった。
兄は民の、家族の命と引き換えに首を差し出したが、その願いが守られているのかどうかすら分からない。
男には確かめる術が無かった]