[家に帰ると、母は上機嫌だった。
帰りが少し遅かったことも、テストの結果についても、何も問わなかった。
───父が帰る日………
村で3番目に大きい屋敷。
其処が女の帰るべき家である。
父は代議士として忙しく、家には殆ど居ない。
父が帰ってこない寂しさを埋めるように、母は娘の教育に力を入れ、それに没頭していった。
父が帰る日だけは、この家の中は華やかだった。
母が笑い、父が笑い、私も叱られずに済む………
何かが母のスイッチを入れないうちに、と部屋へと逃げ込んだ。
マッサージ店のカードは手の中でくしゃりと潰され、掌を開けば優しい香りが広がる。
窓の外には雪がちらつきだしたようだ。
これから起こる何かに気付くこともなく、女はそのままベッドに沈む。
次に目を覚ましたのは、日が変わる前、薬師の少女が女の部屋の窓に小石をぶつけたからであった。]