[出演者達と立ち話をしてから客席に戻ると既に人の姿は疎らになっていた。カシムの姿ももうそこにはない。]
持って行ってくれて良かったんだがな…
[丁寧に畳まれた服を手にしながら辺りを見回すもその姿は見えなかった。
彼を捜し出す事は、おそらく苦もなく出来るだろう。
ただそれは、彼を困らせてしまうだけな気もして。
彼のあの…どこか怯えた様子は、村に馴染んでいない事だけが理由ではあるまい。どこかで警鐘が鳴っていた。"このままにしてはいけない"と。
無理にでも連れて行こうか、少年一人の世話くらい何て事は無いーー
いや、とかぶりを振る。
自分が関われば彼に強制的に軍人としての道を歩ませる事になる。それは決して幸せな事ではない、下手をすれば彼の苦しむ場が変わるだけだ。それよりは同年代の者と交流し本人の望む道を歩ませてやった方が、おそらく。]